つくばSKIPアカデミー

サイエンスカフェを実施しました<2025.11.29>

2025年11月29日(土)、杉本 布達さん(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻)による講演が行われました。

つくば市出身であり、千葉県柏市の東京大学宇宙線研究所を拠点に研究を進める一方、ボリビアなど海外の観測サイトにも滞在しながら実験を行っていることが紹介されました。

前半では、「物理学とは何か」「実験物理学とは何か」という基本的な点について、
– 落下や温度変化など、日常で経験する現象を「数値」で扱うことで、誰が測っても再現できる形にすることを目指す領域であること
– ニュートンの万有引力の法則を例に、数式にしておくことで、リンゴと地球だけでなく、地球と月、恒星同士、ブラックホールと星など、スケールの異なる問題にも同じ法則を適用できること

などが説明されました。

続いて、原子・原子核・素粒子の世界について、クオークやレプトンといった粒子、そしてそれらを結びつけるゲージ粒子・ヒッグス粒子によって、宇宙や物質を説明しようとしている現在の素粒子物理学の枠組みが簡単に解説されました。

また、CERN の加速器 LHC や日本の高エネルギー加速器研究機構における大規模実験の役割にも触れ、「まだ説明できない部分が残っているからこそ、実験物理の研究が続いている」というメッセージが伝えられました。

後半は、杉本さん自身が取り組む「宇宙線物理学」の紹介に移りました。

宇宙空間を飛び回る高エネルギー粒子(宇宙線)が、どのような天体から来ているのかは未解明の部分が多いこと、その手がかりとして、高エネルギーガンマ線やニュートリノといった“まっすぐ飛んでくる粒子”の観測が重要であること、候補として超新星残骸やブラックホールと大質量星の連星の近傍のジェットなどがあることが説明されました。

また、大気中で高エネルギー粒子やガンマ線が原子核と反応して生じる現象「空気シャワー」を、地上に並べた多数の検出器でとらえる手法が紹介され、中国・メキシコ・ボリビアなど、世界各地の高地に広がる観測サイトの写真が示されました。

特に、標高4000m級のボリビア高地で進められている ALPAQUA 実験について、装置配置のイメージや、日本からの遠隔監視と現地でのメンテナンスの実際が具体的に語られました。

質疑応答では、
– 素粒子や実験物理に興味を持ったきっかけ
– プラズマとは具体的にどのような状態か
– 観測に適した「高地」はどの程度の標高か
– 海外実験サイトへの渡航期間や、事前準備・データ解析の進め方

などの質問が寄せられました。

杉本さんは、小学生の頃に元素周期表に興味をもった経験や、ウズベキスタン・軽井沢の寮で過ごした少年期の生活に触れながら、「他の人がやっていないことを先に経験しておくことの意義」も話してくださいました。

参加者は、
・素粒子や宇宙線の研究が、大規模装置と国際的な協力の上に成り立っていること
・海外の高地観測サイトでのフィールドワークと、日本からの遠隔解析・準備が一体となって研究を支えていること
・自分の興味関心を起点に、他の人があまり経験しない環境に飛び込むことが、将来の学びと研究の土台になること

などについて、理解を深めることができました。