つくばSKIPアカデミー

サイエンスカフェを実施しました<2025.12.7>

2025年12月7日、オンラインにて、平元美沙緒さん(まちづくりファシリテーター/秋田公立美術大学非常勤講師)による講演「思考を整理するノートの取り方」が行われました。平元さんは建築を学んだ経験を持ち、現在は地域の話し合いを支える活動をなさっています。講演では、話し合いの内容をその場で可視化する「グラフィックレコーディング(グラレコ)」の考え方を、授業のノートづくりに応用する方法として紹介しました。

冒頭では、参加者に「普段ノートを取るか、困りごとは何か」という質問が投げかけられました。出てきた悩みは「要点のまとめ方が分からない」「スペース配分が難しい」「後で見返すと分からない」といったもので、講演全体はこれらを解決する流れで設計されていました。平元さんは、ノートは「聞く力」と「書く力」の両方が必要だと整理し、聞き取りと書き方をセットで練習する構成を提示しました。

なぜ「書く」ことが思考整理に役立つのかについては、三点が示されました。第一に、人は視覚から得る情報量が大きく、耳だけで聞くと記憶に残りにくいこと。第二に、人は一日に多数の思考を繰り返すため、頭の中に置き続けず外に出すことで脳の負荷を下げられること。第三に、紙(またはタブレット)に書くことで自分の考えを少し離れて眺められ、客観視しやすくなることです。さらに「文字だけでもよいが、文字だけでは表現しにくいことがある」として、図や線、矢印、簡単な絵が持つ強みを具体例で説明しました。長い挨拶文を一枚に要約して見せる例、言葉の関係を線で結ぶ例、難しい内容を絵で“翻訳”するように理解する例が提示され、見返しやすさと整理のしやすさが強調されました。

ノート作成のための「グラフィックパターン」は六つに整理されました。①文字(丸文字、漢字は大きく・ひらがなは小さく、強弱をつける)②色(目立つ色の使い分け、内容ごとのマイルール化、黒の代わりに茶色を使う工夫など)③枠(情報を区切る、感情や重要度で枠形を変える)④線・矢印(話題の区切り、接続詞の代わりとして使い速度も上げる)⑤アイコン・簡単な絵(人の顔は少ない線でも認識されやすい、星印だけでも強調できる、文字を囲むだけで図に見える)⑥レイアウト(逆N型・Z型を基本に、すごろく型・放射型・グループ型・リスト型も状況で使い分ける)です。特にリスト型では、点を小さく打つだけでなく、丸や星など見やすい記号に変える提案がありました。

講演の中盤以降は、練習ワークで「使える感覚」を作ることに重点が置かれました。まず「うれしい」「学校」「お小遣い」「アイデア」を言葉ではなくアイコンで描く練習を行い、正解・不正解のない世界だとした上で、豆電球などの典型表現も例示しました。続いて「私は弟にプレゼントを渡した」を図解する練習では、絵だけにこだわらず「私」「弟」と文字を書いてよいことが強調され、矢印や大きさで関係を表すコツが共有されました。さらに「勉強が好きな理由・苦手な理由」を一分程度聞き取り、後から色や枠で整えるワークを通じて、レイアウトに当てはまらない情報が出たときの対処(余白に枠を作る、最初から分けすぎない等)にも触れました。

要約の難しさに対しては、実用的な三つの指針が示されました。
第一に、テーマ(タイトル)に沿って要点を拾うこと。
第二に、繰り返される言葉、声が強くなる箇所、「まとめると」の後などに注目すること。
第三に、要約がその場でできないときは「全部書いて、後から強調して要約に見せる」という方法でもよいこと
の3つです。ここでは「焼き鳥は肉が要点、ネギは余裕があれば」という比喩で、全部を完璧に取ろうとして肝心を落とさない姿勢が説明されました。

最後に、道具選びと習慣づくりの話がまとめとして語られました。A4を基本に「紙のサイズは考えのサイズ」とし、太めの水性ペンで“ぱっと見て読める”文字にすること、思い切って使える安いノート・ペンを選ぶこと、蛍光色より目が疲れにくい色味を使うことなど、継続を優先した提案が並びました。ノート運用の四つのポイントとしては、①タイトル・見出しを大きく書く②枠や線で話題を分ける③重要点を色やアイコンで強調する④余白を残す、が示され、「うまく書くことより、とにかく書くこと」「真似から始める」ことが繰り返しメッセージとして置かれました。

また質疑応答の時間には、受講生から「なぜグラフィックレコーダーという仕事をはじめたのか」など、研究との接続に関しての質問がありました。平元さんは、文化財建造物の研究から地域の意思を聞く必要性に気づき、学生時代から実践をするなかでグラフィックレコーダーに出会い、いわば「弟子入り」して技術を身につけた経緯が語られました。六つのパターン自体も、動画を研究者と見返しながら「なぜその時その記号を書いたのか」を問われる中で言語化されたものであり、他者との振り返りが技術の体系化につながることが示唆されました。全体として本講演は、ノートを「記録」ではなく「思考を整理し、伝わる形にする技術」として位置づけ、聞き方・書き方・道具・練習法を一体で提示する実践的な内容でした。